大学院

消化管疾患と肝胆膵疾患の2グループに分かれて,それぞれが医薬品,生物製剤,医療機器を用いた新規診断・治療法の探索研究を中心に研究活動を行っております.

 

肝胆膵グループ

【 生活習慣に関連した肝疾患 】

食生活の欧米化と高齢化社会の進展により生活習慣病の増加が生じている.消化器病学の領域においても,脂肪肝(その一部は非アルコール性脂肪性肝炎へ進展),コレステロール胆石症,大腸疾患(特に大腸癌)などの疾病が急増しています.最近では,糖・脂質過剰摂取に伴う肝臓の脂肪化が肝発癌を含む肝疾患の進展増悪因子になることが明らかになりつつあります.そこで,肝臓病学の立場から,各種遺伝子改変マウス(脂肪肝や脂肪性肝炎を自然発症するマウス)を用いて,脂質代謝異常による肝脂肪化とそれに関連する酸化ストレス病態が,肝細胞の生化学機能や発癌プロセスに与える影響を解析し,病態形成や肝発癌の分子メカニズムを解明し,さらに,生体のストレスセンサーの賦活化を利用した新規治療法あるいは発癌予防法の開発を目的とする研究を遂行しております.

 

【 肝胆膵悪性腫瘍 】

消化器癌医療は過去に於ける膨大な科学データに基づき発展を遂げてきましたが,進行癌症例では,医療の限界を感じざるを得ない状況です.癌研究は,基礎より臨床研究を経て医療現場における普及,普遍化へと繋がっていくことが標準的なプロセスでありますが,その流れは一方向ではなく,癌の医療現場より基礎研究へとの流れがあることも重要です.臨床標本の詳細なる解析より癌進展・転移にかかわる因子を見出し,それらを抑止する治療手段を探索し,肝胆膵悪性腫瘍の効率的治療を目指したトランスレーショナル研究を行っております.

(1)糖鎖医学を応用した消化器癌の新しいバイオマーカー探索の早期診断法の開発

糖鎖は「細胞の顔」とも呼ばれており,上皮細胞の表面形質である粘液糖蛋白の糖鎖構造は癌化により変化することが知られています.これには糖鎖を合成する遺伝子群(糖鎖遺伝子)のスイッチが正常細胞と癌細胞では異なることが関係しています.糖鎖は癌細胞の悪性挙動(浸潤・転移)に重大な影響を与える分子であり,タンパク分子に付加した糖鎖は,癌の発生や進展の生物機能と密接にリンクしています.臨床標本を対象とした「レクチンマイクロアレイ」による糖鎖プロファイリング技術は,腫瘍親和性レクチンとして,癌組織における異常糖鎖構造を認識する有用であります.これらレクチンとレクチンをキャリアーするタンパク分子を用いることで早期診断のための鋭敏なシステムの構築,また,抗癌剤や抗腫瘍活性蛋白を結合させることで新しい分子標的療法の開発にも繋がる可能性があります.  本研究は,経済産業省-(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)研究プロジェクト「糖鎖機能活用技術開発」のプロジェクト(班長成松 久)として,「糖鎖関連分子・糖鎖構造を用いた消化器癌の早期診断マーカーの探索とそれらを応用した新規治療法の開発」として既に開始されています.

(2)消化器癌の増殖因子受容体を標的とした新規分子標的治療の開発

マウス胆嚢上皮に癌遺伝子のerbB2を過剰発現させると,erbB2とEGFRの会合によるerbB2下流シグナルが活性化することで胆嚢上皮の増殖能の亢進が生じる結果,胆嚢癌が発生します.胆道発癌にはerbB2シグナルの活性化が深く関与していると考えられます.現在研究室では,胆道癌に対する増殖因子受容体を標的とした新規療法の開発を視野に入れて,ヒト胆道癌(胆嚢癌,肝外胆管癌,肝内胆管癌)標本を中心に,erbB2を含むerbB family membersの発現プロフィールと,それらのhomodimerizationあるいはheterodimerizationの状況,下流シグナル分子を明らかにする研究プロジェクトを展開しております.また,erbB family membersのhomodimerizationあるいはheterodimerizationを修飾する考えられる腫瘍関連糖転移酵素の役割についても検討を行っております.近い将来,本邦においても開始されると考えられる消化器癌のerbB family membersを標的とした抗体療法や阻害薬物療法の効果判定のための癌モデル細胞モデルについても構築中です.

 

【 遺伝子治療 】

当研究室では,つくば理研バイオリソースセンターと共同して肝胆道癌に対する遺伝子治療の研究を行っています。主に,組換えアデノウイルスベクターを用いて,がん特異的に殺細胞遺伝子を発現させたり,がん特異的に増殖するアデノウイルスを用いて,正常細胞への安全性を保ちながら癌細胞だけを攻撃する治療の研究・開発を行っています。

 

組換えアデノウイルスの特徴
アデノウイルスは,細胞に対する感染効率や遺伝子導入効率が良い優れたベクターです。また,レトロウイルスとは異なり,宿主細胞に感染しても宿主細胞のゲノムに入り込んでしまうことは無いため,宿主細胞の恒久的な形質転換や癌化のリスクも殆どありません。

どうやって癌を治療する?
I ) 薬物代謝酵素遺伝子の導入

我々は,これまで薬物代謝酵素遺伝子搭載組換えアデノウイルスを用いて胆道癌細胞に対する治療効果を検証してきました。HSVチミジンキナーゼ(HSV-tk)は,ヘルペスウイルスが持つリン酸化酵素ですが,ガンシクロビルをリン酸化させるため,癌細胞にHSV-tkを発現させてガンシクロビルを投与すると,細胞毒性の強いリン酸化ガンシクロビルが癌細胞内で発生し,自身の細胞を障害します。この様な治療を自殺遺伝子治療と言います。また,5-FUの代謝に作用し,5FUの効果を増強させる大腸菌のUPRT遺伝子を癌細胞に導入することで,癌に対する抗癌剤(5FU)の効果を増強させることにも成功しています。

II ) 癌細胞特異的遺伝子治療を目指して

アデノウイルスは正常細胞にも感染してしまう弊害があるためその対策としては,以下のようなことが挙げられます。我々は,これらを組み合わせて安全性を考慮した効果的な遺伝子治療の研究を行い,報告しています。

1)腫瘍特異的プロモーターを用いて癌細胞特異的に遺伝子を発現させる
CEA発現胆道癌に対し,CEAプロモーターの下流に自殺遺伝子などの薬物代謝酵素遺伝子を搭載したアデノウイルスベクターを用いることで,正常細胞に大きな障害を起こすことなく胆道癌に対し良好な治療が行える。

2)制限増殖型組換えアデノウイルスを用いた遺伝子治療
宿主細胞内での増殖に必要なアデノウイルスのE1遺伝子を変異させることで,Rbおよびp53遺伝子に異常がある細胞でのみ増殖が可能なアデノウイルスを作成することが出来ます。この制限増殖型アデノウイルス(CRAd) は,搭載した遺伝子を癌細胞内で高率に発現させるだけでなく,周囲の癌細胞にも感染してその効果を格段に増強させます。また,ウイルス自身も癌細胞内で増殖することによりoncolysis(細胞融解)を起こします。

3)癌細胞特異的に遺伝子導入を行う
従来アデノウイルスは特異的受容体(CAR)に結合して細胞に感染します。CARは正常組織でも発現しているため,癌細胞だけにベクターを感染させる目的で,アデノウイルスの受容体接着部分(ファイバー)の遺伝子を改変し,CARに結合しないアデノウイルスの研究を行っています。癌細胞で多く発現するインテグリンに結合するアデノウイルスベクターや,ファイバーが抗体のFcドメインと結合するアデノウイルスベクターと癌特異的抗体を接着させた新しいアデノウイルスベクターは,正常細胞には感染せず,癌特異的に感染し遺伝子導入を行うことが可能です。

この分野も日々進歩しており,我々も臨床応用に繋がるよう努力しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

【 消化器疾患患者における遺伝子多型(SNP)の解析 】

我々のグループでは、テキサス大学MDアンダーソン癌センターとの協力のもと、各種消化器疾患における遺伝子多型(SNP)解析の計画が進んでおります。具体的には消化器癌化学療法の薬物代謝に関わる遺伝子の解析であり、この分野での成果は「オーダーメイド医療」につながるものとして、現在最も注目されているものです。事前に各個人のSNPを調べることにより、化学療法の効果や副作用を事前に予測し、投与量や投与方法を変更することが可能となります。

 

消化管グループ

【 病態と活性酸素,Photobiology 】

◎がんと蛍光
筑波大学消化器内科消化管研究班では、1980年以来「がんと蛍光」についての研究を継続して進めてまいりました。その結果がん特異的なポルフィリン代謝の機序が徐々に解明されつつあります。現在ではこれらの知見に基づき、本学物質工学系や東京理科大、京都大工学部、奈良先端科学大学院大学などとコンソーシアムを形成し、がん特異的なポルフィリン輸送路を利用したDDSを構築する研究を推進しております。がん選択的に抗がん剤や金ナノ粒子、鉄粒子を取り込ませ、化学療法や放射線療法、温熱療法の効果を増大させ、その副作用をなくすという新世代のがん治療法開発が目標です。また一方で、光学的な研究をさらに推し進めるべく、より客観的且つ鋭敏な内視鏡作りをコンセプトに新たに蛍光偏光解消法という手法を導入し、種々の病態を解明しうる内視鏡を作成中です。

◎活性酸素とがん様変異株
筑波大学消化器内科では1991年にラットの胃から正常胃粘膜細胞系RGM1を樹立することに成功し世界中で60余の研究室と共同研究を進めてまいりました。さらに2006年、この培養細胞系から、発がん物質によって新たにがん様変異株RGK1を樹立することに成功しました。世界で唯一の正常/がん培養細胞系の組み合わせとして、特許取得済みです。この結果、上述したポルフィリン代謝をはじめとしてがん細胞特異的な生化学、生理学的現象の解明が進んでおります。8年前から本学を中心にRGM1勉強会という会が発足し、京都府立医科大学、大阪大学、京都薬科大学、慶応大学、日本大学、鹿児島大学、島根大学、東北大学、東京理科大学など多くの大学が参集して知識の共有化を進めております。世界でひとつしかない細胞の組み合わせを自由に使える機会を生かして、あなたも独創的なテーマを展開してみませんか?

以上、独創性、新規性では誰にも負けません。知的好奇心にあふれる方の参入を待っています。

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